君は心理学者なのか?

大学時代に心理学を専攻しなぜかプログラマになった、サイコ(心理学)プログラマかろてんの雑記。

ほんのちょっとの仕様変更がバタフライ・エフェクトを起こす。「ラヂオの時間」はそれを教えてくれる、三谷幸喜の傑作コメディだ。

三谷幸喜の「ラヂオの時間」とは

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コメディの脚本家として有名な三谷幸喜の、初の映画監督作品。

あらすじはこんな感じ。

“ラジオ弁天”のスタジオでは、まもなく始まるラジオ・ドラマ『運命の女』の生放送のためのリハーサルが行われている。

初めて書いたシナリオが採用され、この作品によって脚本家としてデビューすることになった主婦の鈴木みやこは、緊張しながらリハを見守っていた。

全てのチェックが済み、あとはいよいよ本番を待つばかりとなったが、直前になって主演女優の千本のっこが自分の役名が気に入らないと言い始める。

プロデューサーの牛島はその場を丸く納めようとして、要求通り役名を“メアリー・ジェーン”に変更した。

ラヂオの時間 | 映画-Movie Walker

度重なる仕様変更

主演女優の役名変更がきっかけで、もともとのドラマ脚本の辻褄が合わなくなり、

物語はどんどんおかしな方向へ向かっていく。

もともとの脚本は以下の通り。

熱海のパチンコ屋で働く律子。
ある日、高波にさらわれた律子は虎三と運命的な出会いを果たす。
恋に落ちる律子と虎三。
しかし虎三は荒れた海にのまれ行方不明になってしまう。
虎三のことが忘れられない律子は、ついに夫と別れてしまう。
奇跡的に再開を果たした律子は、虎三と幸せに暮らした。

この平凡な脚本が、

度重なる仕様変更により壮大なアクションドラマになってしまう。

仕様変更その1:舞台の大幅な変更

主演女優の役名変更(律子からメアリー・ジェーンに)を聞いた役者達は、

自分たちも外人の名前にして欲しいとゴネる。

それによって登場人物は全員外国人に。

さらに舞台は熱海からシカゴへ。

仕様変更その2:運命の男との出会い

舞台を変えてしまったことにより、

脚本の読み直し中にある問題が発覚する。

ナレーター「この話には無理がある」
プロデューサー「お願いしますよ〜」
ナレーター「このあと、回想シーンになります」
プロデューサー「え、ええ」
ナレーター「メアリー・ジェーンは高波で溺れていたところを、
      地元の漁師マイケルピーターに救われる」
プロデューサー「その通り」
ナレーター「それがきっかけでマイケル・ピーターとメアリー・ジェーンは恋に落ちる」
プロデューサー「そうです」
ディレクター「何が問題なんです?」
(声を潜めるナレーター)
ナレーター「…シカゴには、海がない」

そう。シカゴには海がない。あるのはミシガン湖

安易に舞台を変えたことにより、次第に辻褄があわなくなってくる脚本。

現場は騒然とする。考えている時間はない。

放送作家「一つだけ、手はある!」

そこにいた放送作家が、こう叫んだ。

放送作家「シカゴには、ダムはあるか?」
ナレーター「ある」
放送作家「ラッキーだったな!」
プロデューサー「どうする?!」
(にやりと笑う放送作家)
放送作家「………ダムを、決壊させるんだ!!」

ここで相当笑いました。

仕様変更その3:運命の男の職業

もともと村の漁師という設定だった虎三(のちマイケル・ピーターに名前変更)。

しかし役者がアドリブで「名前はドナルド・マクドナルド。職業はパイロットだ」

といってしまう。

それがきっかけで、海に飲まれる予定だったドナルドは、

「ハワイ上空で消息を断つ」という設定に変更し、放送をした。

しかしそれがさらにさらなる仕様変更を呼ぶ。

ディレクター「さっきの、スポンサー大丈夫?」
プロデューサー「え?」
ディレクター「飛行機事故って」

そう。このラジオドラマには航空会社がスポンサーに入っていた。

またまた騒然とする現場。考えている時間はない。

これ以上時間稼ぎのCMを挟むと、放送事故になってしまう。

放送作家「手はある!」

そこにいた放送作家が、また叫んだ。

放送作家「パイロットと言っても飛行機とは限らない」
プロデューサー「どういうことだ」
放送作家「宇宙飛行士も、パイロットだ!」
放送作家「宇宙で消息を断つことにしたらどうだ!」
プロデューサー「それでいこう!」
ディレクター「だけどハワイ上空だって」
プロデューサー「宇宙だって、ハワイ上空だ!」

男の職業は村の漁師から宇宙飛行士へ。

そして物語終盤で戻ってくるはずが、帰らぬ人になってしまった。

仕様変更はバタフライ・エフェクトを引き起こす

「お願いですから、ホンの通りにやってください!」

脚本家がこう叫ぶシーンがある。

主演女優一人のわがままによって、物語がとんでもない方向に進んでしまった。

生み出した本人としては非常に苦しいことだろう。

1箇所変えただけで雪崩れるように物語が変わっていくことを描いた「ラヂオの時間」。

この構造は、バタフライ・エフェクトに似ている。

少しの変化が予想もしない結果を生み出すというアレだ。

実は、自分の人生もちょっと決断を変えるだけで、

自分の気づかないうちに予想もしない結果を生み出しているのかもしれない。

ただ、人生に「仕様」はないので確かめようがないのだけれども。